労務管理と勤怠管理の違いとは?必要性や業務内容、システム化について解説
スタッフの勤怠管理は、医療現場での重要な課題です。しかし、労務管理と勤怠管理の違いやシステム導入のメリットがわからず、適切な管理ができていない場合があります。
病院の勤怠管理システムを導入する際は、労務管理と勤怠管理の連携が重要です。適切なシステムを選択すれば業務効率の向上や法令遵守の強化を実現できます。
本記事を読めば、労務管理と勤怠管理の基礎知識や両者の違い、連携のメリットなどが理解できます。病院の勤怠管理をシステム化するポイントも具体的に解説しているため、人材管理の効率化を図ることが可能です。
労務管理と勤怠管理の基礎知識
労務管理と勤怠管理は、病院経営において重要です。従業員の労働環境や勤務時間を適切に管理するためにも、それぞれの意味を適切に知っておく必要があります。労務管理と勤怠管理への理解は、以下の観点で重要です。
- 法令遵守のリスク軽減
- 健康管理
- 労働生産性の向上
- 人材育成
労働環境を適切に管理する労務管理
労務管理は労働環境を整え、従業員の生産性と満足度を高める重要な業務です。労務管理には、以下の業務が含まれます。
- 労働時間の管理
- 賃金の管理
- 福利厚生の提供
- 安全衛生の確保
- 労働関連法規の遵守
上記を通じて企業は従業員の労働条件を適切に整え、健全な労使関係を築けます。労務管理は単に法令を守るだけでなく、従業員の能力開発やキャリア支援なども含む総合的な取り組みです。
適切な労務管理を行うことで従業員のモチベーションが向上し、企業の生産性も高まります。労働争議の予防にもつながるため、職場環境が改善し長期的な企業の成長につながります。
勤務時間や出退勤を管理する勤怠管理
勤怠管理は、従業員の労働時間を適切に把握して管理する業務です。出退勤時刻の記録や勤務時間の集計、残業時間の管理をします。勤怠管理の主な目的は、以下のとおりです。
- 労働時間の把握
- 給与計算
- 労働基準法遵守
- 業務効率向上
適切な勤怠管理は労働環境を改善し生産性の向上につながりますが、手作業での管理は時間がかかる上にミスも起きかねません。最近では、勤怠管理システムを導入する病院が一般的になりました。勤怠管理システムを使うことで、出退勤の記録や勤務時間の集計が自動化され、業務の効率化を図れます。
24時間体制の職場ではシフト制の勤務が多いため、より複雑な勤怠管理が必要です。勤怠管理システムの活用で複雑なシフトを管理しやすくなり、スタッフの負担軽減にもつながります。
» 勤怠とは?正しい意味や具体的な管理項目
労務管理と勤怠管理の違い
労務管理と勤怠管理はそれぞれ従業員の労働を管理する重要な業務です。しかし、目的や業務内容には明確な違いがあります。労務管理と勤怠管理が相違する項目は、以下のとおりです。
- 業務の範囲と目的
- 管理項目
- 必要なスキルと知識
- 業務手順
業務の範囲と目的
業務の範囲において労務管理は従業員の労働環境全般を対象とし、勤怠管理は勤務時間に特化しているのが特徴です。労務管理は、以下のような幅広い業務を含みます。
- 労働法規への対応
- 人事戦略の立案
- 従業員の健康管理
一方で、勤怠管理の主な業務は以下のとおりです。
- 出退勤の記録
- 休暇の管理
- 残業時間の把握
労務管理と勤怠管理は、目的にも違いがあります。労務管理の目的は、労働条件の整備や人材育成です。長期的な視点で従業員の福利厚生を考慮し、組織全体の生産性を向上させます。
一方で勤怠管理の目的は、正確な労働時間の把握です。日々の勤務状況を管理し、従業員一人ひとりの勤務実績を正確に記録します。労務管理と勤怠管理は密接に関連しながらも、異なる役割を果たしています。
管理項目
労務管理と勤怠管理の違いは、管理項目に大きく現れます。労務管理は、従業員の労働環境の全般的な管理が対象です。一方で勤怠管理は、勤務時間に関する項目を扱うのが特徴になります。労務管理の主な管理項目は以下のとおりです。
- 給与
- 福利厚生
- 労働条件
- 人材育成
- 雇用契約
- 労働安全衛生
- 労使関係
- 人事評価
- キャリア開発
- 職場環境
- 労働基準法遵守
- 労働組合対応
勤怠管理の主な管理項目は次のとおりです。
- 出勤・退勤時間
- 休憩時間
- 残業時間
- 有給休暇取得状況
- シフト管理
- 勤務実績
- 時間外労働
- 遅刻・早退
- 欠勤
- 休日出勤
- 勤務形態
管理項目の違いを理解することで、労務管理と勤怠管理の管理業務の特性や重要性を明確にできます。労務管理をすれば、従業員の労働環境全体を把握できます。勤怠管理は時間管理に焦点を当てることが大切です。
» 看護師が知っておくべき労務管理
必要なスキルと知識
労務管理と勤怠管理では、必要なスキルと知識に違いがあります。労務管理は労働法や人事制度に関する幅広い知識が求められる一方で、勤怠管理では時間管理や勤務シフト作成のスキルが重要です。
労務管理で必要なスキルや知識は以下の点が挙げられます。
- 労働法や人事制度の知識
- コミュニケーションスキル
- 問題解決能力
- 従業員の福利厚生や労働環境の改善に関する知識
勤怠管理で必要なスキルや知識は以下のとおりです。
- 時間管理のスキル
- シフト作成のスキル
- 出退勤システムの操作スキル
- 労働時間に関する法律の知識
- データ分析と報告書作成のスキル
労務管理と勤怠管理のスキルと知識の違いを理解することで、効果的に人事管理できます。それぞれの役割を明確にしましょう。適切なシステムを導入すれば、業務効率が上がって従業員の満足度を高めることが可能です。
業務手順
労務管理と勤怠管理の具体的な業務手順には、いくつかの違いがあります。それぞれの手順を理解できれば、効果的に人事管理できます。労務管理の業務手順は以下のとおりです。
- 雇用契約の作成
- 社会保険の手続き
- 給与計算
- 法令遵守のチェック
- 労働条件の見直し
- 人事評価の実施
- 教育研修の計画
勤怠管理の業務手順は以下のとおりです。
- 出退勤時間の記録
- 残業時間の集計
- 休暇申請の処理
- シフト作成
- 勤務実績の確認
- タイムカードの管理
- 有給休暇の管理
それぞれの業務手順の違いを理解し適切に実施すれば、従業員の能力を最大限に引き出せます。効率的に組織の目標を達成することも可能です。
労務管理と勤怠管理を連携させるメリット
労務管理と勤怠管理を連携させるメリットは以下のとおりです。
- 給与計算の精度向上
- 労務トラブルの防止
- 法令遵守の強化
- 業務効率の向上
病院の人事管理を大幅に改善し、人事部門の負担軽減や法令遵守の強化を実現できます。
給与計算の精度向上
労務管理と勤怠管理の連携により、給与計算の精度が大幅に向上します。正確な勤務時間が給与計算に反映されるため、従業員の実際の労働時間に基づいた適切な給与支払いが可能です。残業時間や休日出勤の管理も容易になり、手当の計算も正確にできます。
給与計算の精度が向上すると以下のメリットがあります。
- 手当や控除の計算ミスが減る
- 勤務パターンに応じて給与計算できる
- 複雑な勤務体系に対応できる
給与明細の作成が迅速かつ正確になると、従業員へスムーズに説明できて信頼を得やすくなります。給与計算にかかる時間と労力が削減されると、人事部門の業務効率も上がります。
労務トラブルの防止
労務管理と勤怠管理を連携させる大きなメリットの1つが、労務トラブルの防止です。正確な勤務時間の記録により、さまざまなトラブルを未然に防げます。
以下の効果を期待できます。
- 残業や休日出勤の適切な管理
- 過重労働の防止
- 有給休暇の取得促進
- 労働基準法違反のリスク軽減
勤務実態が可視化されると、従業員を公平に評価しやすくなります。労働時間についての会話が円滑になり、トラブルの芽を早期に摘むことが可能です。労務管理と勤怠管理の連携により、労務関連書類の正確な作成や、従業員の健康管理に役立つデータ収集も容易になります。
労務管理と勤怠管理の連携はハラスメントの早期発見や対策の考案、職場環境の改善点の把握に役立ちます。労務上のトラブルを未然に防ぐことが可能です。労務管理と勤怠管理を適切に連携させると、従業員と病院のそれぞれが安心して働ける環境を作れます。
法令遵守の強化
勤怠管理システムの導入により、労働基準法などの法令に準拠した勤務管理がしやすくなります。法令遵守の強化は、コンプライアンス違反のリスク低減につながります。
以下の管理や効率化が可能です。
- 残業時間の上限の管理
- 有給休暇の取得状況の把握
- 各種労務関連書類の作成や提出の効率化
勤怠管理システムの導入により、36協定(※1)の遵守をサポートします。労働時間の適正な管理により、過重労働の防止が可能です。証拠資料を正確に記録できるため、労働基準監督署の調査にも備えられます。
労働法の改正時には、柔軟な対応が可能です。常に最新の法令に準拠した勤務管理ができるため、病院における法令遵守の強化と労務リスクの低減ができます。
» 勤怠管理に関する法律のルールを把握しよう!
※1 36協定とは労働基準法第36条を指し、法定時間を超えた労働や法定休日の労働を課す際、企業と労働者が結ぶ協定。
業務効率の向上
労務管理と勤怠管理を連携させると、重複作業が減って業務効率を上げることが可能です。
以下のような効果が期待できます。
- リアルタイムのデータ更新
- 人的ミスの減少
- 管理業務の負担軽減
- データ分析の容易化
リアルタイムでデータが更新されることで、迅速な意思決定が可能です。管理業務の負担が減り、データ分析もできます。部門間の情報共有もスムーズになり、組織全体の業務効率が向上します。
従業員自身でシフト変更や休暇申請ができるため、管理者の作業を減らすことが可能です。作業の効率化は、コンプライアンス遵守を容易にします。労務管理と勤怠管理のシステム導入により、さまざまな勤務形態に柔軟に対応できます。
従業員一人ひとりの働き方に応じた対応も可能です。レポート作成が自動化されるため、管理者の業務効率も大幅に向上します。労務管理と勤怠管理の連携による効果で、病院全体の生産性が高まり、質の高い医療サービスの提供が可能です。
労務管理と勤怠管理をシステム化するメリット
労務管理と勤怠管理をシステム化するメリットは以下のとおりです。
- 業務効率化による時間とコストの削減
- 不正行為の防止による公平性の向上
- 法改正への迅速な対応
- データの一元管理による正確な意思決定
業務効率化による時間とコストの削減
勤怠管理システムを導入することで、業務効率が大幅に向上します。手作業での入力や集計作業が不要になるため、人事部門の負担も軽減されます。
以下の情報把握や効率化が可能です。
- リアルタイムの勤怠把握
- 人為的ミスの減少
- 勤務シフトの管理の簡易化
- 労働時間の適正化
有給休暇の管理や取得促進も容易になります。各種レポートやデータ分析も簡単にできるため、経営判断に役立つ情報を得られます。モバイル対応のシステムであれば、外出先からの勤怠管理が可能です。
打刻忘れや修正申請などの処理も迅速化され、従業員の利便性が向上します。勤怠データを人事評価や給与計算に活用できることもメリットです。勤怠管理システムの導入により、公平で透明性の高い人事制度の運用が可能になります。
» 病院の勤怠管理における課題
不正行為の防止による公平性の向上
不正行為を防止できることは、勤怠管理システムの重要なメリットです。勤怠管理システムの導入により、さまざまな不正行為を効果的に防げます。
対策や把握できる内容は以下のとおりです。
- タイムカードの不正打刻防止
- 勤務時間の改ざん
- 残業申請と実際の勤務時間の整合性
- アクセスログによる不正操作の追跡
上記の機能により、人為的なミスや意図的な不正を防げます。システムは24時間365日稼働しているため、リアルタイムで勤怠データを収集し分析できます。異常な勤務パターンがあれば自動的に検出するので、不正の早期発見も可能です。
複数の認証方法を組み合わせることで、本人確認の強化も可能です。システムへのアクセス権限を厳密に管理できるため、不正アクセスのリスクを低減できます。勤怠管理システムは、不正行為を防止する上で重要です。公平で透明性の高い労務管理が実現できれば、職場の信頼関係の構築にも役立ちます。
法改正への迅速な対応
病院の勤怠管理システムは、法改正へ迅速に対応できます。勤怠管理システムの更新により、最新の法令に対して柔軟な対応が可能です。労働基準法や働き方改革関連法などの変更は、すぐにシステムに反映されます。常に最新の法令に準拠した勤怠管理が可能です。
法改正の情報をタイムリーに入手し、勤怠管理システムが適用することで、コンプライアンス違反のリスクを低減できます。勤怠管理システムに最新情報が反映されることで、以下の迅速な調整が可能です。
- 就業規則の変更
- 労働時間管理のルールの組み込み
- 残業時間の上限規制の設定
法改正への迅速な対応は、病院の適切な勤怠管理に欠かせません。法令遵守の徹底は従業員の労働環境の改善にもつながり、病院の信頼性も向上させます。
データの一元管理による正確な意思決定
データの一元管理により、業務の効率化と正確性の向上を実現できます。勤怠データと労務データを1つのシステムで管理できるようになると得られるメリットは、以下のとおりです。
- 情報の整合性を保てる
- 重複入力や転記ミスを防げる
- リアルタイムで情報更新や共有できる
必要な情報にアクセスしやすくなると、データ分析や報告書作成の効率が大幅に向上します。バックアップや復元も簡単にできて、セキュリティ管理の一元化も可能です。
データの一元管理によりシステム間の連携が容易になると、トータルコストを減らせます。病院の勤怠管理において、データの一元管理は重要な要素です。
労務管理システムと勤怠管理システムを連携するポイント
労務管理システムと勤怠管理システムの連携における、大切なポイントを紹介します。
必要な機能の明確化
病院の勤怠管理システムに必要な機能を明確にすると、適切な機能を備えたシステムを選べて、勤怠管理の効率化が図れます。病院の勤怠管理システムに必要な主な機能は以下のとおりです。
- 勤務時間の記録と管理の機能
- シフト作成と管理の機能
- 有給休暇の申請と承認の機能
- 残業申請と承認の機能
- 勤怠データの集計と分析の機能
上記の機能により病院スタッフの勤務状況を正確に把握し、適切に労務管理できます。以下の機能も、病院の勤怠管理に役立ちます。
- 給与計算と連携できる機能
- 労働時間を可視化できる機能
- 勤務実績のレポートを作成できる機能
- 法定労働時間を管理する機能
- 複数事業所を一元管理できる機能
上記の機能を活用することで、病院全体の勤怠管理の効率化が可能です。
自社に合ったシステムの選択
自社に合ったシステムの選択は、労務管理と勤怠管理の効果的な連携に欠かせません。適切なシステムを選択することで、業務効率や従業員の満足度を上げられます。自社の業種や規模に適したシステムを選ぶことが大切です。病院の場合、シフト制や夜勤などの特殊な勤務形態に対応できるシステムが必要になります。
システムを比較検討する際に注目すべきポイントは、以下のとおりです。
- カスタマイズ性
- 使いやすさ
- 他システムとの連携性
- コストパフォーマンスの優劣
- 導入の実績や評判
- サポート体制
- 将来的な拡張性
実際に導入する前に、試用期間やデモンストレーションを活用して使い勝手を確認しましょう。ただし、システムの選定は経営陣だけで行わず、実際に使用する従業員の意見も参考にすることが大切です。自社に合ったシステムの選択は、病院全体の業務を効率化させる上で重要と言えます。
» 病院向け勤怠管理システムとは?メリットと選び方
セキュリティ対策の確認
病院の勤怠管理システムにおいて、セキュリティ対策は重要です。病院では患者の個人情報を扱うため、厳重なセキュリティ対策が求められます。勤怠管理システムを選ぶ際、重視すべきセキュリティ機能は以下のとおりです。
- データの暗号化機能
- アクセス制御や権限設定
- 二段階認証
- データのバックアップや復旧ができる機能
- システムの定期的な更新
上記の機能を確認することで、不正アクセスや情報漏洩のリスクを大幅に減らせます。個人情報保護法やGDPR(※2)などの法令への遵守状況も、重要なチェックポイントです。セキュリティ監査や認証取得の状況の確認も必要です。第三者機関による評価は、システムの信頼性を判断する上で役立ちます。
クラウドサービスを利用する場合でも、物理面のセキュリティの考慮は大切です。データセンターのセキュリティ対策も併せて確認しましょう。
※2 GDPRとはEU一般データ保護規則のことで、個人データの保護・取り扱いの詳細に関する法令を指す。
まとめ
病院の勤怠管理システムは労務管理と勤怠管理を効果的に連携させることで、多くのメリットをもたらします。給与計算の精度向上や労務トラブルの防止、法令遵守の強化ができます。効率的な病院運営に有効です。
労務管理と勤怠管理のシステム化により業務効率が向上し、不正行為の防止や法改正への迅速な対応が可能になります。データを一元管理できるため、情報の正確性も高められます。
システム導入の際は必要な機能を明確にし、自社に適したシステムを選ぶことが重要です。システムを選ぶ際は、セキュリティ対策も忘れずに確認しましょう。適切な労務管理と勤怠管理の連携は、病院の円滑な運営に欠かせません。